異食症
目次
異食症の定義と分類
異食症とは、栄養価のない、食べ物ではない物質を、少なくとも1ヶ月以上継続して食べる行動を指します。これは単なる奇行ではなく、正式な精神障害の診断基準に含まれます。
異食症の主な種類
- ジオファジー（Geophagy）: 土や粘土を食べる行動。有害物質（鉛など）の摂取リスクがあります。
- トリコファジー（Trichophagy）: 髪の毛を食べる行動。消化されずに消化管内に塊（毛髪胃石）を形成し、腸閉塞を引き起こす危険性があります。
- アモフィジー（Amylophagy）: 紙や布、澱粉などを食べる行動。消化器系の問題を引き起こす可能性があります。
異食症の主な原因
異食症の原因は多岐にわたり、身体的要因と精神的要因が複合的に影響することが多いです。
1. 栄養・身体的要因
- ミネラル欠乏: 特に鉄や亜鉛の欠乏が異食症を引き起こす主要な原因の一つと考えられています。体が必要な栄養素を得ようとして、異常な食行動を示すことがあります。
- 消化器系の問題: 特定の物質を摂取することで、消化不良や胃腸の炎症が生じやすくなります。
2. 精神的・発達的要因
- 精神的な問題:ストレス、不安、うつ病などの感情的な不安定さが、異食行動を一時的に和らげる手段（逃避行動や自傷行為）として現れることがあります。
- 発達障害:自閉症スペクトラム障害（ASD）や知的障害、ADHDを持つ人々においても見られることがあります。感覚の探求や、衝動的な行動として異食行動につながることがあります。
異食症がもたらす深刻な症状と影響
異食症は、摂取する物質の種類や頻度によって、生命に関わる健康上の問題を引き起こす可能性があります。
1. 消化器系の合併症
- 腸閉塞・消化不良: 髪の毛やプラスチックなど、消化されない物質が消化管内に詰まり、激しい腹痛や嘔吐、腸閉塞といった緊急事態を引き起こすことがあります。
- 胃腸の損傷: 異物や硬い物質の摂取により、胃腸に炎症や潰瘍が発生するリスクがあります。
2. 中毒と感染症のリスク
- 有害物質の中毒: 土や古い塗料に含まれる鉛や水銀などの重金属を摂取することで、神経系や内臓に深刻な損傷を与える中毒症状が現れることがあります。
- 感染症: 土や不衛生な物を食べることで、細菌や寄生虫による感染症のリスクが高まります。
3. 栄養不足と発達の遅れ
非食物を摂取することで満腹感を得てしまい、通常の食事から必要な栄養素（ビタミン、ミネラル）を十分に摂取できず、栄養不足や貧血に陥ることがあります。特に小児においては、成長や発達に重大な影響を及ぼす可能性があります。
異食症の治療法と包括的なアプローチ
異食症の治療は、原因となる要因に応じて、身体的および精神的な健康の回復を目指す包括的なアプローチが必要です。
1. 身体的治療と栄養管理
- 栄養補給: 鉄や亜鉛などのミネラル欠乏が原因の場合、医師の指導のもとでサプリメントを使用し、栄養不足を改善します。
- 消化器系の治療: 腸閉塞や中毒症状がある場合は、外科的処置や解毒治療といった緊急の医療的介入が求められます。
- 栄養指導: 管理栄養士による指導のもと、異食行動の減少につながるバランスの取れた食事計画を立てます。
2. 心理的・行動療法
- 行動療法: 専門家による行動修正プログラムを通じて、異食行動を減少させるための具体的な戦略や、代替となる行動パターンを学びます。
- 心理療法: ストレス、不安、うつ病などの精神的な問題が原因の場合、カウンセリングや認知行動療法（CBT）を通じて、感情的な不安定さに対処し、異食行動を軽減します。
3. 環境とサポート
- 家族の協力: 異食行動を防ぐための安全な環境を整えるとともに、家族や友人による継続的な精神的サポートが治療の成功に不可欠です。
まとめ
異食症は、非食物を食べる行動を特徴とする摂食障害であり、早期に発見し、適切に対処しないと、生命に関わる深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。
栄養不足、精神的要因、発達障害など、原因は多岐にわたるため、医師、心理療法士、栄養士などの専門家チームによる包括的な診断と治療が必要です。周囲の理解とサポートを通じて、異食症の影響を最小限に抑え、健康的な生活を取り戻すことが可能です。
